名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1806号 判決 1950年3月09日
被告人
野村國夫
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人岡崎基の控訴趣意第一点の要旨は、原判決には、判決に影響すること明らかな事実の誤認がある。本件傷害は、被害者である岡田新一において先に手を出し、矢庭に右手で被告人の左頬を毆つたので、被告人においてこれに反撃を加えたものである。各被告人の行爲は、正当防衞行爲に該当するが、原審が被害者の行爲を急迫不正の侵害と認めず、被告人の行爲を正当防衞と認定しなかつたのは、事実の誤認であると謂うにある。
よつて案ずるに、原判決挙示の証拠によれば、被告人は、酒を飮んだ末、原判示の道路を通行中、被害者岡田新一も酩酊して、同所を通りかかり、被告人に不注意にも突き当つところ、被告人は、岡田に向つて「何か文句があるか」「俺は弁天政の弟だ」と怒鳴つて、右被害者を脅迫し、更に連行しようとしたので、被害者が被告人に毆りかかつたのであるが、被告人は、被害者を突き飛ばしたり蹴つたりして、被害者に原判示のような傷害を與えたことが認定せられる。右のように、被告人の方で爭斗を誘発し、相手方と喧嘩して、相手方に傷害を與えたような場合は、急迫不正の侵害に対し、自己を防衞するため、やむことを得ず爲した反撃とは、認められないので、原審が被告人の右所爲を正当防衞と認定しなかつたのは正当と謂うべく、論旨は、理由がない。